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木ノ下歌舞伎 舞踊公演『三番叟』『娘道成寺』

2年に一度、長野県松本市で開催される信州・まつもと大歌舞伎の関連公演として、
木ノ下歌舞伎 舞踊公演『三番叟』『娘道成寺』が上演される。

それに先駆け、5日間の滞在稽古をしていた、木ノ下裕一、杉原邦生、きたまり、北尾亘の4名が取材に応じた。


美術と『三番叟』の演出を手がける杉原邦生(KUNIO)は、2008年の初演から10年経ち、
再演を重ねてきた本作についてこう語る。
「「今回は振付もダンサーも美術も音楽も全て変わりる、完全リクリエーション。
とても信頼している北尾亘くんに振付をお願いして、音楽は僕がここ数年何度も
ご一緒させていただいているTaichi Masterさんにクラブミュージックの交響曲
のような長大な新曲をつくっていただきました。今までの『三番叟』を観ていても
観ていなくても、この新しい『三番叟』を観てほしい。
脈々と受け継がれてきた演目のその先に、僕らの新しい祝祭儀式を作れたらなと思う。
松本では2年前の『勧進帳』以来の上演だが、今回も新しい驚きと感動を与えられたらと思う。」」


『三番叟』の振付と出演の北尾亘(Baobab)は、木ノ下歌舞伎で全編振付を担うのは初めて。
「『黒塚』で出演と自分の出演パートの振付を担当したが、今回は舞踊演目でのためより深く創作に関わっている。
緊張もするが、大胆に創り変えていけたらとワクワクしている。
木ノ下さんのレクチャーから三番叟が持つ祝祭や祈りという要素を知り、
創作を進めていく中で舞踊の原点に触れているような感覚が芽生えてきた。
日頃はダンスを非日常的行為と捉えているが、今作では祝祭と祈りという視点からダンスを全肯定して、
舞台上から観客を祝福できたらと思っている。」


『娘道成寺』演出・振付・出演のきたまり(KIKIKIKIKIKI)は、本公演で松本に初上陸。
「昨晩、初めて松本に来て、ホテルで寝ていたら朝の6時に鐘の音がガンガン鳴りまして、
あ、娘道成寺を踊っていいんだって迎えられた感じがした。
『三番叟』と共に2008年から始めて、初演では現代音楽を、再演では実際の長唄を編集しての上演だったが、
昨年の上演では長唄を全曲使用し再構築した。
「クラシック音楽に親しみがあり山に囲まれた松本で、日本のクラシック音楽とも言える長唄で踊ります。
歌詞には山を題材に唄っている部分や様々な人間の思いが込められており、
そんな楽曲で現代の舞を魅せた際に、松本の観客のみなさんがどう反応してくれるのかが楽しみです。」


木ノ下歌舞伎の主宰・木ノ下裕一は、「松本では2回目の上演。2016年に『勧進帳』を初めて上演し、
お客さんの反応がとっても豊かで能動的だったから次に機会があったらダンス作品を、と思っていた。
ダンスは演劇より解釈に幅があり、能動的に観ることによって、もっと豊かに受け取っていける芸術だと思う。
今回上演する2作品は、原作の内容も使用する音楽も、アプローチが全然違うところが見どころ。
木ノ下歌舞伎は様々な演出家を招いて創作している。
その理由は、一口に古典の現代化といっても、その方法はひとつではないからです。
いくつものアプローチがあっていいはずで、だからこそ面白い。
また、旗揚げしてから12年間で上演機会が一番多いこの2作品を今回、旗揚げから共に活動してきた杉原さん、
木ノ下歌舞伎が初めて外部からお招きしたアーティスト第一号のきたさん、
振付家としては一番新しく招いた北尾さんで上演することが、感慨深い。」


記者から、『三番叟』の振付を北尾にお願いした理由と、物語性のない本作に対するアプローチの方法を問われた。
杉原は「ドラマ志向の強い僕の演出と、ドラマに沿って振りを創るのが上手な北尾くん。
この二人なら、物語(ドラマ)のない作品を、新しいドラマとして創れるのではないかと思った。」と答えた。
北尾は、「三人の神がただ伝言していくだけという内容の中で、それぞれがどんな役割があり、
古典だけでなくて現代に置き換えるとどのように捉えられるか、と発想を巡らせている。
神々の距離感や言葉、踊りの伝達の仕方が今回の振付のポイント。」と答えた。
また、木ノ下は北尾に対し、「以前『黒塚』という作品の出演者として、北尾さんに参加してもらった。
その時に長唄で踊る部分があり、彼が自ら振付けて踊ってくれたのですが、それが素晴らしくて。
日本舞踊の振付を基に現代的にアレンジしていて、センスが良くて巧みでした。
そして、ドラマとダンスの接合が本当に上手で、古典は物語の中でダンスがあったり、
ダンスかと思ったらそれが物語となったりするから、北尾さんは古典の現代化には打ってつけの振付家だと思う。」と述べた。
また、『娘道成寺』のきたについて木ノ下が熱く語ると、きたは「情念の話といわれるが、
自分としては到底納得できない物語。けれど、いかに誇り高く生き終わらせるか、という
プライドの話だと最近解釈するようになった。これは自身の踊ることのプライドとも繋がる。
今回、納得して踊ることができる気がする。」と笑いながら話した。


取材後、『三番叟』の一部シーンが公開された。

公演は、まつもと市民芸術館小ホールにて、6月15日(金)から17日(日)まで。
公演情報はこちらから

【文:牛山 写真:山田毅】


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